海外に住んだ。ポルトガルに。
そして今、また日本にいる。
「え、帰ってきたの?」と、よく笑われる。うん、帰ってきた。
その身軽さが、わりと気に入っている。

「海外移住」って言葉、ちょっと重すぎないかな。
人生を賭ける一大決心、骨を埋める覚悟、退路を断つ。憧れはあるのに、その重さの前で立ちすくむ。
わかる。僕も、その気持ちが少なからずあった。

きっかけは、たいしたことじゃない。日本を旅してたころ、たまたま出会ったバックパッカーの人たち。
あの人たちは軽やかに世界を渡って、いろんな話を聞かせてくれて(世間ではそれを失敗というのかもしれない)、「あ、そういう生き方、ありなんだ」と気づいたんだ。

妻を口説くのに、一年かけた。テレビに海が映れば「クロアチアって海が綺麗でね!」とさんざん言った。煙たがっていた。
でも実際に海外につれていくと、いつのまにか妻が「住めるわぁ」と言った。

そして僕らはポルトガルに引っ越した。一度も、訪れたことのない国に。
ここで海外へ住んじゃうのか。とんでもないけど、おもしろいな、僕。
そんな感覚だった。

海外移住は、人生を賭ける儀式みたいに語られるけれど、やってみればちょっと遠い引っ越しだ。重くしていたのは、いつだって自分の心のほうだった。

ポルトガルに住み始めて、しばらくしてから、妻が「日本に帰りたい」と言った。
それで、帰ることにした。

移住して戻ってきて、わかったことは、ひとつだけ。
移住は、重大決心なんかじゃなかった。永住しなくていい。骨を埋めなくていい。帰りたくなったら、帰っていい。
「いつでも戻れる」と思っているくらいのほうが、最初の一歩は、ずっと軽くなる。

憧れはあるのに、大ごとすぎて動けない。もしそうなら、大ごとにしているのは、たぶん出来事のほうじゃない。自分自身の心のほうだ。

たいそうな才能なんていらない。ただ、自分の欲求に正直に動く。
それだけで、人はわりと、遠くまで行けるんじゃないだろうか。

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